昨晩、テレビ東京系で放送された『ガイアの夜明け』。
ご覧になられた方も多いのでは、と思う。
JR東日本は今、大きく変わろうとしているのはご存じの通り。
高輪ゲートウェイシティの『街びらき』をはじめ、鉄道を中心とした街づくり・コトづくりを標榜し、鉄道会社という既成の概念を打破して、今風にいうなればサスティナビリティな経営を進めていこうとしている。
鉄道事業に依拠するのではなく、そこにヒトという関りを密に持つべく様々なコネクトソリューションをぶつけてきている。鉄道会社だからこそでなく、鉄道会社がこんなことを事業として展開しているまさに現代版財閥企業だ。
都市インフラを抱える事業というのは、収益性が難しい。
固定費にかかる負担が相当あり、経営を圧迫する一つの要因ともいえる。
国の特殊企業体であった国鉄、日本国有鉄道は明治の開業以来の歴史を持ちつつ、一度倒産をした。国の方針には逆らえない経営、いびつな労働組合との労使関係、東海道新幹線の開業が赤字の火種になったことなど、時代に取り残されていく企業体質が放漫経営、親方日の丸と揶揄され徐々に国民の信頼を失っていった。
1987年4月、6つの旅客会社と1つの貨物会社に分割され民営化されたJR。
発足後38年を経過したが、命運がはっきりと分かれている。
三島会社と呼ばれた、北海道、四国、九州の各旅客会社。
九州はいち早く鉄道外収入にその基盤を求め、多角化を推進。今や不動産事業が中心となり、株式の上場を果たした。その反面、主たる鉄道事業の経営は決して盤石とはいえず、新幹線の建設・開業による効果もそこまで華々しくはない。逆にコストを抑えるために駅の無人化を徹底して推進したことによるハレーションが問題となっているが、利用者に立ったサービスの提供には評価は今一歩だ。
北海道と四国が苦しい。
四国は慢性的な利用者減に悩まされるばかりでなく、鉄道が他の交通機関との競争に負けている側面がある。非電化区間がいまだに主流であり新幹線を持たないことが弱みとまで言われる。筆者はそうは思わないのだが、いわゆる大都市圏直結アクセスに乏しいのが四国の弱点といえよう。
北海道は事故の頻発が大ダメージの原因。
また、札幌圏も含め輸送の慢性赤字体質から抜け出せないのも原因だ。そこに来て人手不足などが重なり、主要幹線の一部は災害による復旧ができずに廃線となった。復旧にこぎつけるだけの体力もなければ、鉄道を必要といわれながらも、実際は採算性が認められずに廃線のやむなきに至るのが本音だろう。
東日本、東海、西日本の本州3社も安泰とは言えない。
東海の事業性はすべて新幹線にかかっているといっても過言ではない。中央リニアが開業すれば、東京大阪の二大都市圏輸送がさらに強化されるが道半ばにして開業がずれ込んでいるし、名古屋から先のルートには先行きが不透明な問題もある。静岡での河川、地下水問題がいい印象を与えていないのもある。それでも、鉄道輸送に関してはブレのない体制を一貫しているのはJR東海といっていいだろう。
西日本は逆に、東日本も同様だが地方ローカル線の存廃がカギである。
大阪圏をはじめとした都市輸送は収入の核とはいえ、営業範囲が広く収入の安定化には苦慮している。ここも省力化をいち早く進め、子会社化の徹底など経営のスリム化を図っている。山陽新幹線が東海道と比べて収益がそこまでいいとも言えない。京都や奈良、大阪、神戸などインバウンドに特化できる主要観光都市を抱えてはいても、実際航空機やバスとの競合も激しく、関西圏は対峙する主要私鉄各社とのシェアにもかかわってくる。
さて、表題のJR東日本。
『変革2027』という経営ビジョンを掲げ、鉄道会社というスタンスを今大きく変えようとしている。昨今の地上波メディアにJR東日本をテーマとした番組が目立つようになった。それも主題は輸送本業ではなく、高輪ゲートウェイ、スタートアップ、地域と連携した街づくり協業、クルーズトレイン四季島のような高収入者・インバウンドをターゲットとした非日常のサービスが主題となっている。
エキナカビジネスが当たり前の風景になったのは、東日本の生活サービス事業にこだわった最大の収益といえよう。駅がショッピングの中心となり、鉄道を囲い込むかのように自社のビジネスを展開していく手法は、阪急創始者の小林一三も舌を巻くところだろう。いまや駅がDJブースとなり、フェスの会場になってしまうなんて、この先はごく当たり前の風景になるかもしれない。また、高輪ゲートウェイの開発は東京の中心を掌握する企業の一大プロジェクトにも見える。都心アクセスがお世辞にもいいとは言えない東京。膨大な鉄道網の発達を使いこなすのは非常に難しい。インバウンド立国を目指す国の方針からも、主要空港のアクセス改善は喫緊の課題であるが、成田はとにかく時間がかかる。羽田も鉄道交通が便利とは言い切れない(それでも京急・モノレールの輸送力はすごい)。そこに、JRがアクセス新線を建設し、各エリアへの送客に取り組むとなれば、競争というよりかは手段の拡充という意味でも利便性を向上可能だ。今日、明日の2日間の工事はその影響ではあるが、これも代替交通機関があるからこその工事といえよう。
しかし、その反面一番危惧するのが『安全』である。
JR東日本が言ってはばからないのが『安全』こそトッププライオリティということ。
システムの向上が安全性を飛躍的に高めてきたのも事実だが、この安全を愚直に支えてきたのは外ならぬ現場社員である。だが、安全のほころびが見えてきているのも事実である。
新幹線の走行中分離事故は、安全の根底を覆した。
幸い、脱線や死傷者を出す事故にはなっていないとはいえ、走行中の列車が分離事故を起こすというのは非常に重大な事象である。それも未だに原因を特定できていないという側面を見ても、システムや機械技術がいくら進歩しても扱う人間の技術力が追い付いていないのでは?という疑問もある。
JR西の福知山線脱線事故と、JR東の羽越線脱線転覆事故は奇しくも同じ2005年に起こっている。前者はダイヤ遵守を問われるが故の社員教育体制・労務管理に重大な問題があったこと、安全設備の投入が追い付いていなかったなどがあげられ、後者は予測不可能な気象による偶発事故ともいわれている。しかしながら、不幸にも事故で命を奪われたという事実はあるわけで、事故の撲滅に徹底して取り組んできた鉄道マンの労苦が、たった一度の事故で水泡に帰してしまうのは、非常に因果なものだ。
細かい事故は日々発生している。実際に報道にはならないものを含めると膨大なものになるかもしれない。そこには、システムや仕組みに依拠し、働く側に対して根本的な変革を求め労働を強いているという側面がないとも限らない。
首都圏各線で南武線と常磐緩行線の2路線ワンマン運転が開始された。
実は、超大編成(常磐線は10両、南武線は6両)のワンマン化が実現できると輸送業界は大々的な革命といえる。乗務員の省略は人件費の抑制につながるだけでなく、会社側の言い分からは、新しい領域に投入できる人材の確保も可能で、人員不足に悩まされる今の時代には経営体制の効率化に一役買うという面をあらわにしている。
地下鉄ではすでに超大編成のワンマン化運転は始まっているし、新都市交通システムは無人運転が一般的なのは事実である。
しかし、これにはからくりがある。
東京メトロ南北線を例にすると、この線は建設時点ですでにワンマン化(自動運転)を見据えていた。大きな違いが完全にホームと線路を分けたホームドア形式の導入で、ゆりかもめも同じである。今のホームドアは既存のホームに後付けであるため、飛び越えようとすればできてしまう代物。一定の抑止効果はあれど、完全ではない。また、地下区間であり踏切などもなく、いわば鉄道専用線で交通を遮断する仕組みがないことも、自動運転を可能とする要因といえる。
では南武線はどうか?
川崎~立川間を結ぶ同路線は、地上区間、踏切がある。一部高架区間もあるとはいえども、ホームドアはすべて後付けである。6両編成であり、ワンマン化する試行路線という観点からは非常にクリアすべき課題を持った、会社にとっては最適な路線である。安全面から踏切がある、地上区間がある条件をクリアできれば、ほかの路線にも一定条件をクリアすれば導入できるという実例が欲しかったのは明白だ。本施行後も現時点ではワンマン化による安全を阻害するような事故は起きていない。おそらく、今後はワンマン化に向けた施策が急激に進むことだろう。
だが、テレビの本編を視聴していて気になったことがある。
南武線のワンマン運転前に乗務員が実際の旅客営業列車で訓練を受けていたことだ。
もちろん、ワンマン運転に向けた訓練を営業列車で行う周知はあったろうし、車掌も当時は乗務していただろう。指導する社員も運転席に添乗していたが、非常に気になる。実際、訓練には含まれていない踏切支障が発生し、急停車対応をする場面が放送されていたが、訓練事案以外の事象に車掌や補助員がそれに係ろうとする姿勢がないのである。なぜ踏切非常ボタンが扱われたかは番組本編では取りざたされてはいなかった。では、逆にその事案が踏切内に自動車が立ち往生してそれを認めた訓練営業列車だとしたら、その場面はどう報じられたのだろうか・・・・。下衆の勘繰りとも思われるだろうが、乗客を担保にして訓練を行うという姿勢に疑問を持たざるを得ないのである。
常磐緩行線でも、ワンマン運転の営業列車訓練は行われており、車内アナウンスによる周知は行われたと知人からは聞いている。安全には万全を期してはいると思いたいが、正直なところ胸に何か引っかかるところがある。
もう一つは、南武線の車掌がなぜ狙われたか?というところだ。
かつて、ここには矢向車掌区という箇所があった。人づての話なのだが、この職場は俗にいう組合職場である。労働組合に加入している社員の力が強いということだ。内情ははっきりとわからないが、俗にいう浦和電車区事件があってからJR東日本は労務体制を強化したともいわれ、強大な力を誇示した第一労働組合との確執がスト権確立問題で一気に加速し、表向きには労組加入の社員が愛想をつかして弱体・自滅に及んだといわれる。その労務体制強化に尽力したのが会社の中枢役員であり、論功行賞が与えられたともっぱらの話であるのは、その筋では有名なものだ。
かつての労組が力を持った職場が、会社の施策で発展解消され、人材の有効活用につながったとすれば、経営側から見れば大功績を果たしたことになる。あくまでも憶測にすぎないが、符号するものがあるとなれば、単なる偶然で片付けることもできないだろう。常磐緩行線も国鉄時代には力の強い労務職場の影響があった線区でもある。
安全を第一に掲げる会社でありながら、その安全の綻びに対して気づかないままいる。注目を浴び、会社が大きな変革を遂げている最中、不幸な事故が起きることのないように祈りたいものである。